第1種公認審判員資格の作文を回覧いたします。審判委員会を中心に審査され、再提出されたものです。
次回のJTU理事会(9/17横浜)での承認を予定しておりますが、全国からのご意見がございましたらお待ち申し上げます。
なお、現在、再提出予定はこの他に二点あることを申し添えます。
2011年度 第1種公認審判員資格<新規申請作文>
愛媛県トライアスロン協会 第2種審判員 末光 浩美
「トライアスロン」の魅力とこれからの課題
トライアスロンは、オリンピック競技である。スイム・バイク・ランという3種目の複合競技であり、年齢に関係なく楽しめる競技である。
また、自然の中で行える競技なので地球環境にやさしい生涯スポーツとして生活の中に取り入れ楽しむことが出来る。
現在日本では年間200以上の大会が開催され、トライアスロン人口も20万人以上とも言われている。2009年トキめき新潟国体より公開競技として開催され、2016年岩手国体からは正式競技となる。
近年、有名タレントの参加やメディア等の紹介により「辛くて過酷なスポーツ」から、身近で誰にでもできるスポーツとして一般に知られるようになってきた。
私自身トライアスロンを始めて15年、とても充実したトライアスロンライフを楽しんでいる。そして、審判員資格を取得して7年になる。
そこで、選手・審判・運営・様々な観点からトライアスロンという競技を今までの経験をふまえ、私なりにいろいろな角度で考察し展望させてみた。
1、選手からのルール・審判・大会運営
JTUは、事業計画として「トライアスロンの普及・及び指導」と題してトライアスロン登録会員5万人目標計画を掲げている。トライアスロンブームとも言われており、特に都心部での会員数は増えていると聞いている。しかし、停滞しているところもあるようだ。
その理由は何であろうか。トライアスロンには興味があってもきっかけがつかめない・誰でもできると言われても三つもやらなければならない等、様々であろう。
趣味でピアノやバレエを習い始めるのとは訳が違いそうだ。3種目の各団体に個別登録をしている者などは登録料だけでも大変になるのが実情ではないだろうか。
初心者にとって、トライアスロンという競技を教えてもらえる環境はまだまだ少ないと感じる。トライアスロンのルールやマナーも大勢の仲間がいてこそわかることも多い。実際、各大会前の競技説明会でローカルルール等の説明がある。
しかし、この説明を理解している選手はどのくらい居るだろうか。
大会審判長・技術代表・各パートチーフなる審判員団が競技説明を行うのだが、専門用語の連発・声の小ささ(マイクを使っているにもかかわらず聞き取れにくい)・とぎれとぎれの説明(説明になってない)をされる大会が少なくない。質疑応答になると、質問されてすぐに答えられない場合があったり、質問内容と応答内容が異なっている
場合が見られる。
このような説明会であれば、初心者は理解することが難しいし経験者にとってはとても退屈な時間になるに違いない。最後に「以上理解できましたでしょうか?他に質問はありますか?」と聞かれたところで、実際わからないことが沢山あったとしても恥ずかしさが先に立ち質問ができない。返答は内容が的外れでかえって混乱してしまう。
選手とのキャッチボールが出来てないまま会話は終わる。このとき選手間では、「今のどういう意味?ようわからん。もう1ぺん聞こうか?いや、あんた聞いて!」とこんなやりとりが多く聞かれる。このようなことがコースミス・ドラフティング・ブロッキング・果ては競技中の事故につながるのではないだろうか。
ここで提起しなければならないのは競技説明会の方法である。ワールドカップや日本選手権等エリートの大会では、対象が絞られているのでしっかりとプログラムが作られ、視覚的にもプロジェクターを使いビジュアルで訴えわかりやすい。
そして、競技説明をする役員も各専門分野に分担されており、内容が洗練され密度が高い。説明する役員も手慣れているので、言葉も明確であり聞く側に配慮された説明会となっている。
これに比べ各地での大会には改善の余地があると考えざるを得ないのである。会場入り口に掲示板に注意個所を張り出すとか、説明会場に張り出すなどして視覚的に訴えるなどしてはどうだろうか。大会説明書を見ながらの聞き取りを義務付けするなどしてもいいだろう。言葉を明確にし、初心者にも分かりやすく説明することが大事であるのと同時に、声の出し方から練習するのが審判員の第一歩であることを感じるのだ。
さて一般の選手たちには、日頃からルールやマナーなどになじんでもらわなければならない。
たとえば、各トライアスロン競技団体に入会・登録した際にJTU COMPETITION RURES BOOKを購入or進呈することを考えてはどうか。すでにそうしている団体もあると聞いている。ネットでも閲覧することはできるが、このルールブックの大きさといい厚さといい携帯するのにちょうどよいと思う。練習時に携帯していればその都度確認もできるし、覚えやすいだろう。
また、大会パンフにルールのあらましを掲載してもよいし、A4サイズのものを1枚配布するのもいいだろう。トライアスロンのルールは、オープンウォーター・ロード・マラソンそれぞれの専門ルールとは違って複雑になっているからだ。
もうひとつは、小さな練習会をたくさん開催できるような組織運営をしていけば良いのではないか。大きな大会になると経費や人員の確保が大変になってくるが、練習会だと参加するメンバーたちで賄えると思うからである。一般に告知し、初心者講習などを実施、その中で新しいメンバーと交流・情報交換などができ会員登録もスムーズにおこなわれるのではないだろうか。
これらのことは、私たち審判員が日頃の活動から、ルールの伝道者となり、それが大会のスムーズな運営につながる効用を生み出すことに他ならない。
2、審判員からのルール展望
2000年シドニーオリンピックで正式競技となったのを機に、審判員という業務に興味を持った。JTUのルールブックのコピーを渡され、これを熟読するようにと言われ審判試験に臨んだ。このルールブックを読んでいくうちに、それまでの認識と若干の違いがあることもわかった。
審判員と聞けば、「反則をとる人」というイメージが強かったからだ。選手の立場からは分かり得なかった事項が沢山あった。
2005年第3種審判資格を取得し、その年の石垣大会で審判員デビューした。翌年、2種審判員の資格も取得。その後は年間2・3大会、審判員として大会に関わっている。その中でも一番記憶に新しい「サンポート高松トライアスロン大会」は、私の中で新しい課題を投げかけてくれた。
第1回目となるサンポート高松トライアスロン大会は、久方ぶりに誕生した四国ブロックの大会である。距離もスプリントに設定され、初心者レベルの参加者が多くみられた。
大会前日現地入りし、全コースを下見・確認。事前に書類確認をし、チェック個所を抑えておいたので、スムーズに下見確認が出来、この後の審判会議での質問項目も絞れた。
スイム会場だけはかなりの波があり、明日もこのままだとスイムは中止の可能性があると考えた。審判員の全体会議が終わり各パートに分かれて話し合いが行われた。
前日の状況が続けばスイムは中止だと考えられていたが、実施に備え審判員の配置・サポート体制等、想定されるすべてのトラブルに対応できるよう対応策を検討した。
ほかのパートよりかなり議論が続き、最終確認は大会当日の朝に持ち越された。
大会当日の朝、前日の大荒れだった海上も、鏡面のように穏やかに静かだったので胸をなでおろした。スイムも実施決定が出て各事項確認も取れレース開始の決定となった。私は、水上バイクでのマーシャル業務となり、レースの安全そしてサポートを務めることになった。
ここまでは全体を見ていた、いや見ようとしていたのだが競技開始直後にスイムパートで溺者が出るという事故が起き一点集中となった。改めてレースは続いているということを自分に再認識させ周りの状況を把握しようとするも、無線対応の悪さ・電波状況などが情報を阻んだ。それに付け加え、審判員の対応の悪さが目に耳に付いてきた。
はっきりしないホイッスルと怒号が聞こえる「こらーっ!そこ、通るな!通るな言よろが!」耳を疑った。どうやら通行人がコースを横切ったのを注意したようだ。
トランジッションエリアに行くと座り込んでいるマーシャル、話に夢中になっているマーシャル、一般人が入っても気が付いていない。
トライアスロンという競技が注目され選手もレベルアップしている中で審判員のレベルがこんなお粗末なものであってはいけない筈である。
レスキューということに関してもどれだけの審判員が救命救急措置を行うことが出来るのであろうか。レース中の選手の安全と潤滑な流れを促す審判員として、こういった緊急時に冷静な対応が出来るよう心がけることも求められるだろう。救命救急の講習など各団体でも実施しているようだが、審判員なら社会生活にも役立つ緊急時対応を日頃から意識しておくべきものであろう。
トライアスロンは夏本番のレースに備えて早急に対処をしなければならないと考える。資格を持った審判員であるからこそ、しっかりとしたルール説明が相手に伝わり対処できるという当たり前のことが求められているのだ。とても初歩的なことだが、とても重要だと考える。
その為には、無線の正確な使用方法・競技説明会のリハーサル等、大会前に行うことも必要ではないだろうか。大会でなくとも、練習会などで実践するのも一つの方法であろう。そして、審判員は選手や観客すべての人から注目されているということを認識したい。
3、大会運営からのルールと審判
この夏、地元愛媛県双海でトライアスロン大会とジュニア大会を企画準備中である。
冒頭でも述べたように気軽に参加できる大会がもう少しあれば・・・と、常々思っていた。トライアスロン大国であるオーストラリアでは年間を通して身近で開催されるジュニア大会が沢山あるという。子供のころからのスポーツ環境が、強い選手をつくるということに大きく関係してくるのではないか。
国体競技にもなる種目として、これからのジュニアの育成にも力を入れていかなくてはならない。そのためには、ジュニアたちに良い大会環境をつくってあげるべきではないかと考える。
双海を管轄する自治体、伊予市、愛媛県という段階で行政に協力を依頼。伊予市・愛媛県トライアスロン協会・双海実行委員会の三つ巴でこのプロジェクトを進めている段階である。道路使用許可申請・地元住民への説明会、問題も山積みである。
同時に改めてトライアスロンのルールの再確認・一般道路交通安全の再確認をしていくうちに、これからの課題を見つけることもできた。
開催地としては、このトライアスロン大会を開催するに当たって沢山の選手を迎え人と人とのふれあいや経済効果を図りたいであろう。選手の安全だけではなく地元住人の安全も考えなくてはならない、もちろん観光客も例外ではない。双海所長から「自転車走行での平均スピードは時速70Kmらしいが、そんなスピードで集団走行され観客に突っ込んだり家に突っ込んだりしたらとんでもないことになる」と言われ、トライアスロン競技をテレビなどでしか観たことがなければ、誤解がこんなにあるのかとびっくりさせられた。
誤解はそれだけではなく、ひとつひとつトライアスロン大会の構成など説明しながらコースを一緒に回ったりもした。話し合いを重ね、相互理解をしていく過程でお互いの信頼関係も築かれていくと信じている。
今回大会を立ち上げることに関わって、大会全体のコーディネートがいかに大切であるかを認識させられた。今後の私の課題としてレースビジョンのシュミレーションを重ね、よりよい大会が演出できるように努力していきたいと思う。
そのためにも、私はここでキーワードとして「知っていて当たり前」という言葉を上げてみたいと思う。いつの間にか私自身がトライアスロンの審判としてこのスポーツに関わっていくにつれトライアスロン独自の競技方法やルールを「知っていて当たり前」と思うようになってしまっていた。無論、私だけでなく多くの審判員も「知っていて当たり前」として審判業務を行っているのではないだろうか。がトライアスロンを知るにつれ、いつの間にかそうなっている自分に気がついた。
このスポーツをさらに広めるには、選手や主催者側に対してより懇切丁寧な順序だてた競技に関する説明が必要なのではないだろうか。JTUのウエッブサイトにもかなりの情報が掲載されているので、ここにヒントがあることを広めるのも有効であると考える。
大会によっては、アンケート調査を行いいろいろなデータを収集しているところもあるようだが、選手としての今の情報を知ることは運営側・技術審判としても大切なことではなかろうか。大会参加申し込みの際にアンケート調査を行い、事前に問題点を推察しチェックリストに入れる。それによって対応シュミレーションも組まれることであろう。そしてこのアンケート調査の内容を審議する場を審判試験講習会で行ってはどうかと思う。
実際、愛媛県協会の組織では各部門担当が決まっていない。これを行うことによって各部門の課題や定義を再確認するとともに専門委員の確定もできるのではないか。
大会開催時の大切な資料作りを毎回行うことで新鮮かつ元気な大会が開催されるのではないかと考える。「知っていて当たり前」の現状を打破し、初心に戻って大会運営、競技説明会等を考え直すべきだと考える。
トライアスロン競技の認知度が上がるにつれ、選手のレベルも日々刻々と進化している。注目度も上がり大会も多くなってきている。審判員のレベルもこれとともに向上していかなければならい。
この考え方の展開から導き出されることは、審判活動は選手の育成と強化に直結し開催地域住民との密接なつながり・信頼関係を担っているということである。単純に大会会場に行って、打ち合わせをして審判をやって帰宅するといったルーティンからの脱皮ともいえる。そしてこの大きなイメージ展開がトライアスロンそのものの発展につながっていくと考える。審判活動やトライアスロン競技をコーディネートするというやりがいのある仕事に大きな希望と自信を持ってこれからも経験を重ねていきたい。