2007/2/16

 第1種審判員資格 2006年度申請者(全国公示)


JTU第1種公認審判資格・2006年度として次の方から申請が出ています(敬称略)

   ◇斉藤正明 (大阪府) 

  申請にあたり提出された、「第1種にかける思い」と過去に第2種上級資格を更新した
 際に提出した「第2種上級更新論文(修正版)」を開示します。

  この公示の目的は、第1種審判資格申請者の考え方や人となりを多くの人に理解
 していただき、同資格に相応しいかどうかをご判断いただくためです。皆さんから寄せ
 られるご意見やご質問は、申請に伴って提出される書類(推薦状など)と共に第1種審
 判員としての選考の考慮対象となります。

  公開された作文内容や本人に対する意見や問い合わせは、今シーズンを通じ、申請
 者がこれに回答するものとします。また、JTU会員に限定せず、一般からの意見もお受
 けします。ご意見・質問に対する申請者の返答も、Eメールで公開します。

  公示結果を踏まえたJTU技術審判委員会と総務委員会の審査、およびJTU理事会の
 承認のため、3月9日(金)を選考のための意見受付の締め切りとします。

  両名の申請に対して異議がある場合は、所属加盟団体を通じ、JTU理事長に理由
 書を公示期間中にご提出下さい。一般の方からの異議についても内容により考慮致
 します。
 
  なお、異議申立ては理事会に報告するものとし、最終調停は、JTU総会とします。
 意見・感想の受付は、この公示期間にかかわり無く歓迎いたします。

   送付先:
   (1)長谷技術審判委員長( tknagaya@s5.dion.ne.jp ) 
   (2)JTU事務局 ( jtuoffice@jtu.or.jp ) Fax03-5469-5403 

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◆斉藤正明 (大阪府) JTU:727-01005

「第1種にかける思い」
 トライアスロン、始まりはボランティアでした。 翌年から、大会に選手参加
してきました。気がつくと、大阪府トライアスロン協会事務局長になっていま
した。健全な大会財務を目指し、バイクラック等の大会資材を持ち始めました。
日本トライアスロン連合設立を機に、事務局長を辞任しました。
 以後、トライアスロンに色々な形で係わってきました。グリーンピア三木大会
等のレースディレクター。バイクラック等の大会資材レンタル業者。国内各
大会への審判参加。審判講習会の講師として審判員養成。様々な大会・関係
者との係わりを通じて、トライアスロンを学習してきました。
 引退とも考えますが、私が学習したトライアスロンを伝える責任が残っていま
すし、私も未完成です。私が得意分野と考える大会の設営業務を中心に、
後進の方々と協力して公正で安全で、違反の出ないトライアスロン大会を目指
します。カラーコーンの置き方一つで、違反・事故は防げるものです。


<2種上級更新レポート(加筆修正版)>

課題 「技術・審判活動での個人的失敗の分析と展望」
表題 「小学生大会での失敗の分析と展望」

「To err is human, to forgiven divine.(誤りは人の常、それを許すは神の
御心)」(アレキサンダー・ホープ、詩人、英国人)、すなわち「人間は誤りを
犯すものであり、誤りを犯すことを恥じることはない。どう生かすかである。」
1件の重大な失敗の背後には、様々な小さな失敗があると言われている。
又、失敗の種類も、予見出来た失敗・予見出来なかった失敗・初心者の失敗・ベテ
ランの失敗・思い込みの失敗・コミュニケーションの失敗等がある。
トライアスロン大会を行う上で、失敗・事故は必ず起こることであり、過去の大会
でも、いかなる失敗も事故もなかった大会は皆無に近いと考えられる。
では、大会存続に関わるような重大なる失敗・死亡事故もいずれは起こる事であり
避ける事は出来ないのであろうか?
トライアスロンの技術審判員として、重大事故を起こさない事が唯一の業務では無
いにせよ、失敗・事故を未然に防ぐ研究は日常努めるべきである。
以下、小学生大会での失敗事例(記録・コース誘導・親の過熱応援)と改善事例
(一般大会も含む)を述べ、それらをふまえて失敗の分析と展望を述べる。
(大会名・年度等は伏せる)

事例1
瀬戸内海で行われた「わんぱく大会」より依頼を受けて計時記録の業務を担当した
際のスイム計時での失敗事例

スイム会場は海水浴場、水深70〜150cm、150m 1周回、1ウエーブ約
40人、計時方法はスイム計時ラインで選手通過時ストップウォッチ記録、上腕部
にマジックインクで記入されたレースナンバーを目視で読み上げ、記録紙に記入ス
イム終了後、レースナンバーとストップウォッチのタイムをパソコン入力当時は発
信式チップも普及しておらず、選手を計時ラインで止めナンバーを確認する方式が
主流で、計時ラインで数選手の渋滞が発生する事もよくあった。
小学生大会での計時業務は初めてではあったが、1ウェーブの選手数も40人程度
であり、スイム計時スタッフは3名の2系統で計時できると判断した。
第1ウェーブスタート、目を見張った。1つの集団がスイムコースを移動、そのま
まスイムフィニッシュ、必死に腕をつかんでナンバーを読み上げるも、脇を子供が
すり抜けて行く。レースナンバーを確認をできた選手は半数以下であった。
ストップウォッチ記録数、約8割。幸い、スイム担当者よりスタート選手は全員ス
イムフィニッシュしたとの確認を得た。
大会本部へ連絡し、選手全員の記録取得は不可能、先頭と最後尾のレースナンバー
と記録を確実に取り、計時ラインを狭くして通過選手の数をストップウォッチと人
数読み上げで確認する。スイム記録は先頭と最後尾以外は同タイムとした。
スイム計時担当スタッフ誰一人として予想しない結果であったが、予見出来ない結
果ではなかった。小学生に関して、はなはだしい認識不足であった。
加えて、500人参加の伊豆大島大会等、日本選手権レベルの大会でスイム計時の
経験があるのだから、少人数の小学生大会など問題なく計時できるとの思い込み失
敗だったと考えている。

改善事例
1.レースナンバー確認をナンバー記入されたスイムキャップ回収で行う
2.スイム計時での最重点項目を、計時ライン通過選手数の確認とする
3.発信式チップ等、新技術を採用する

事例2
公営保養施設内で行われていた一般トライアスロン大会に、キッズ・ジュニアの
部門を新たに加えて行われた大会で、小学生選手のランコース離脱の発生事例

屋外円形プールでのスイム、施設内のバイクコースを周回後プール付近のトランジ
ションエリアに戻り、ランスタート後はバイクコースを約200m走った後、右折
してランコースを折り返し、同一コースを戻ってフィニッシュするコースである。
小学生部門は、コース図を使用して競技説明を行い、一般部門の後に行われた。
スイム・バイク終了後、トップ3選手が競い合ってランスタート、数分後バイク・
ラン分岐付近で実況していたアナウンサーより「小学生のトップグループが、分岐
地点で右折せず、そのままバイクコースを走っていった」との連絡が入った。
大会車両で追いかけ、正規分岐地点の次の分岐で右折してバイクコースを離れ一般
道を走っていた3選手を回収した。コース離脱地点から約1kmの地点であった。
離脱地点まで戻り、失格ではなく記録は取ってあげると説明しレースに復帰させた。
分岐地点で待機し、3選手が折り返した後、フィニッシュに向かうのを確認後、
「よし。1件落着」とフィニッシュ地点の大会本部に戻った。
間も無く、泣きじゃくる3人の小学生と怒り心頭の5人の親に取り囲まれた。
「分岐地点の大会スタッフに、バイクコース方向を指示された」との主張である。
問題の分岐地点にスタッフを配置した覚えは無い。一般観客である。
大会は参加費のみで運営され、スタッフも少人数で、のんびりした雰囲気で行なわ
れてきていた。その年は「震災復興に元気を」をテーマに、キッズ・ジュニアを導
入、キッズ・ジュニアは参加費も無料で開催した。
問題の分岐地点は、コース図も事前に配布し、競技説明会も行っており、過去に
コース離脱は発生していなかった。
しかし、過去、コース離脱が発生しなかったのは運営の成果ではなく、選手個々の
コースを知る努力の成果であった。大会運営上のミスは明確である。

苦情の拝聴。対して、大会運営不備のお詫び・大会運営事情の説明・コース図の事
前配布・競技説明会の実施・質問の受け付けの実施、そして、「コースを知る事は
選手の義務です」・「正式記録を補正することは出来ません」と繰り返した。
1時間半後、「 大会運営で同じ失敗は繰り返さない・正式記録表に、補正タイム
(当然、各1位のタイムである)を参考記録として欄外に記載する・表彰の副賞品
と同等の賞品を提供する 」で了解を得た。
「もうコースアウトせんようにしような。」「うん、わかった」少し救われた。

改善事例
1.競技コース上の分岐点は全て、誘導員を配置するか、誘導パネル・カラーコーン
  ラインマーカー・ガムテープ等で明確に表示する。
2.子供と親が一緒に読んでもらえる、「ハンドブック」を作成し事前配布する
3.「JTU競技規則のまとめ」を事前配布する

事例3
ロングタイプのデュアスロン大会で、6年目からバイク競技時間帯を利用して、地
元住民へのサービスとして、キッズデュアスロンが始められたが、あいまいな開催
での失敗事例

デュアスロン大会でのバイク競技(60km)中、大会会場付近は空白時間が、1
時間近くもあり、観客を引き止める意味でも、サブイベントが必要とされた。
地元住民へのサービスの一環として地元の小学生に、通常の自転車で出来るデュア
スロンを経験してもらおうと、キッズデュアスロンが始められた。
時間稼ぎのサブイベントである。事前申し込みは必要だが、基本的に当日のみのイ
ベントであり、バイクラックも道路上で設置、トランジションエリアの考えは、導
入されなかった。競技説明はスタート前に口頭で行なわれた。

競技開始、ランからバイクへ、スタッフ「先にヘルメットをかぶって下さい」親
『早く自転車をはずせ』手伝う親が続出した。「ここまで押してきてください」
『そこで乗れ、負けるぞ』バイク競技中、『根性出していけ』『もっと速く走れ』
買い物籠に手を添えてエアロポジションをとる子供もいる。
バイクからランへ、「ここで自転車を降りて下さい」「自転車を置いてから、ヘル
メットを脱いでください」『止まるな、遅れるぞ』『その辺に置いとけ、すぐ走れ』
『なにをぐずぐずしてる、早く行け』泣き出す子供が出始める。接触転倒も発生した。
全ての親がこうではないが、3割近くもいると雰囲気を作ってしまう。
当然の事ながら、キッズ大会での親の言動にペナルティーを科すわけにもいかない。

2回目の大会終了後、地元主催行政から「一般の選手はマナーもよく、大会からの
お願いも聞いていただいている。それに反し、キッズの下品な雰囲気はどうだ。親
のあの声はもう聞きたくない。来年はやめよう」との意向が示された。

改善事例
1.片手間ではなく、独立したイベントとしてキッズデュアスロンを行う
2.競技説明書を文書化し、大会前日に親子同伴での競技説明会を行う
3.一般トランジションエリアに隣接して、キッズエリアを設営する
4.親のトランジションエリアへの立ち入りを競技中は禁止する
5.バイク・ヘルメットに関しては、スタッフが子供の手伝いを差別無く行う
以上により雰囲気は大幅に良くなり、現在もキッズデュアスロンは継続中である。
過熱気味の応援もあるが、大方の父兄の方は気持ち良く応援しておられる。

分析と展望
大会に参加している小学生・父兄に、様々な苦情を頂いた。小学生と父兄はセット
で参加される。小学生は父兄の期待にこたえようとするし、父兄は小学生が大会で
どのように扱われているかを注視している。父兄がトライアスロンの経験者である
のは、まだ少数である。一般の大会では予想しない事態も発生する。
小学生の目線、父兄の感情を今後とも研究していかなければならない。

全ての技術審判員にとって失敗は避けられない事である。では、全ての失敗が避け
られないのであろうか?予防できる失敗はいくらでもある。
予見できる失敗は避けられる。どの時点で予見するかが問題である。
軽度な失敗の時点で、重大な失敗が予見出来る事が我々技術審判員の目標だと考え
る。失敗を予見するのに必要なものは経験だけなのであろうか?
そうであれば、3種審判員等の初心者には予見は出来ないことになる。初心者でも
失敗情報があれば予見は可能である。JTU競技規則・運営規則・テクニカルガイド
ラインには、情報が満載である。逆に経験豊富な上級審判員は、色々な事例に無意
識に反応して、失敗の予見と言う意識が働きにくい、すなわち、思い込みの失敗を
起こす可能性を持っている。
コミュニケーションの失敗でも同じ事が言えると考える。審判長が担当審判員に指
示を出す場合、自分の中で常識と判断している内容を形に表して他人に伝えるのは
結構努力のいるものである。「それくらい、説明しなくても、わかるはず」が、頻
繁に起こる。上級審判員になればなるほど、経験が増えれば増えるほど、思い込み
の失敗・コミュニケーションの失敗には注意すべきである。
大会に関わる数々の業務は単独の人間では行えない。レースディレクター・技術代
表・審判長・チーフマーシャル・各担当審判員・大会スタッフで分業して、夫々の
業務を遂行する体制になる。重要なのは体制内でのコミュニケーションである。
特に、レースディレクター・技術代表・審判長間、審判長・チーフマーシャル間、
チーフマーシャル・各担当審判員間のコミュニケーションは不可欠である。
大会で個人的な単独失敗は考えにくいものであるし、失敗は犯しても結果として問
題が発生しなかったから良いと考えてしまうものである。
初心を忘れてはならない。3種審判員を取得した時の初々しい熱意を維持したいも
のである。審判員講習会の講師をして、受講生の気持ちが眩しく見える時がある。
この論文を文章にしてみて、ようやく気が付いた。私自身の中に重大失敗の材料は
山ほどある。私個人で私の犯す失敗を防ぐのは不可能に近いと感じている。

提案がある。レースディレクター・技術代表・審判長は夫々ベテランと初心者との
ペアで行ってはどうであろうか?ベテランは思い込みを排除出来、初心者は経験を
獲得出来る。そして後継者が育っていく。

<主たる参考文献>
失敗を活かす技術:黒田勲:河出書房新社 =以上=