付録1 審判員の表現について

(「JTU Magazine No.6」より)


 人間の言語表現は、本能的な表現から知能的なものまでさまざまである。言葉で意志を伝えようとしても、気持ちとは裏腹のことが相手に伝わってしまうことがある。
 大会では競技者も審判員もそして観客も何らかの興奮状態にあるといえる。そこでは競技者の水先案内人である審判員には、言葉による適切な表現方法が求められるのである。
 今回は、その具体的な表現方法を示し、大会の場での審判の言葉遣いを考えてみた。

<プラス指向の表現>

 「お酒は20歳になってから」という広告表現は、以前は、「20歳未満は禁酒」であった。内容は同じである。審判員もこのような「前向きな表現」をしたらどうだろうか。
<具体例>
 ◇「静かにしてください」-->「挨拶が終わってからにしてください」
 ◇「遅れちゃダメだ」-->「今度から早く来てください」

<やわらかな表現>

 スポーツの場では、多少強くても「単純明快」な表現が使われる。例えば「排除しなさい」という言葉だ。このような表現を身につけた審判員は、日常でも区分なく使ってしまうことがある。
 「外にでるようにお願いしてください」「危険ですから出てもらってください」「あぶないです」「もう少し下がって応援してください」。このように、言い換えても、ハッキリと意志は伝わる。言われた方は、素直な気持ちで納得するだろう。
<具体例>
 ◇「止まれ」-->「止まってください」-->「止まって」
 ◇「レースナンバーを直せ」-->「直してください」「直して!」「曲がってます」
 ◇急を要するときは、指さして「レースナンバー!」とコールする。
 ◇アクションを起こさせる目的を伝える。「サングラス!(取って)」「キープレフト」だけでもよい。

<やさしさを込めたキビシイ表現>

 命令調のことばにも「直してください」という気持ちがこもっているかどうかに差がある。「ダメダ!」という気持でなく、「お願い」という気持ちがあれば“声のトーン”が変わってくる。
 ホイッスルを吹くときでも同じ。「そこをドケ」と「どいてください」と願いながらでは、音色に違いが出る。

<内容を言い換えての表現>

 どう気をつかおうとしても、穏やかに表現しづらいことがある。内容をかみくだいて言ってみる。「失格です」という表現は、「ルール上認められません」ということだ。
<具体例>
 ◇「ダメです」-->「こうしてください」
 ◇「そんな所でしちゃダメダ」-->「あそこに(後少しで)トイレがあります」

<補足しながらの表現>

 どうしても、強い言葉を使う仕方ない場面がある。背景を付け加えると、固く強いことばが自然な表現に聞こえる。
 「厳重注意」は、言い換えづらい。内容を説明しながら表現する。「本来であれば失格です。しかし、運営の反省があり、今回は厳重注意です」。ちょっと長いが、こう言われたら「仕方ないか」と思うだろう。
<具体例>
 ◇「失格です」-->「残念ながら失格です」「失格ですが、次回ガンバッテください」

<感情を込めての表現>

 命令口調を和らげる簡単な方法は、英語のプリーズに当たる言葉を添えることだ。Stopは、Stop, pleaseである。「止まって+ください」「行って+いいですよ」という具合だ。
<具体例>
 ◇「後ろに下がって」-->「落ちついて。まだ時間があります。下がって」-->「そこ下がって。落ちついてください」

<勇気づける表現>

 適用範囲は微妙だが、競技者を勇気づけることは審判員の役割の一つである。緊張をやわらげ、好記録を出してほしい。
 受付やバイクチェックで、「この前の大会はガンバリましたネ」、「明日、ガンバッテください」などが、遠慮なく、自然に口をついて出るようになりたい。「おはようございます」などは当然である。
 人間は、理性よりも感情で判断することが多い。北風よりもお日様が心を動かす。「表現を工夫し」筋の通った厳しさを持ちながらも《思いやりあふれる雰囲気》をかもしだしてほしい。
 これらは日頃から使い慣れないと、大会で使いこなせない。案内文を作るときの表現にも応用したい。
 以上のことは、競技者にも適用される。例えば、「ダメな大会であった」というのを「改善の余地がある大会」といえば、より良いだろう。「ここを改善したら最高の大会になります」としたら、主催者も、積極的に改善しようという気持ちになるだろう。
 審判員は、《競技者の気持ちよい大会参加》を見守っている。競技者は改善点を適切に表現する。そして良いところは、もっと大きな声で表現してほしい。



Japan Triathlon Union

Copyright(C)1998 Japan Triathlon Union (JTU) All Rights Reserved.